賃金支払いにおける企業側の実務上の注意点

賃金の支払い方法は多様化していますが、実務上の対応を誤ると労働基準法違反につながるおそれがあります。ここでは、企業が特に注意すべきポイントを整理します。


① 労働者の「同意」は必須(形だけはNG)

銀行振込やデジタル払いは、いずれも労働者の同意が前提です。

実務でよくあるNG例は以下のとおりです。

  • 入社時に「給与は振込とする」と一方的に説明している

  • 同意書はあるが、内容が曖昧

  • 実質的に選択の余地がない

同意は書面で取得し、
「現金払いも選択できる」ことを明確にしたうえで行うことが重要です。


② 就業規則・賃金規程との整合性を確認する

支払い方法を変更・追加する場合、
就業規則や賃金規程との不整合が起こりやすくなります。

  • 支払方法が現金払いのままになっている

  • デジタル払いについて記載がない

  • 退職金の支払方法が曖昧

規程と実態がズレていると、是正勧告の対象になることもあるため、
制度導入時には必ず規程の見直しを行いましょう。


③ 賃金の「全額支払い」ができているか

労働基準法第24条では、賃金全額払いの原則が定められています。

注意したいのは次の点です。

  • 手数料を労働者負担にしていないか

  • デジタル払い後、すぐに引き出せるか

  • 一部が使用制限付きポイントになっていないか

特にデジタル払いでは、
「実質的に自由に使えない賃金」になっていないかの確認が重要です。


④ デジタル払いは「指定事業者のみ」利用可能

資金移動業者であれば何でも良いわけではありません。

  • 厚生労働大臣の指定を受けているか

  • 指定の有効期限が切れていないか

指定外のサービスを利用すると、
通貨払いの原則違反となるリスクがあります。


⑤ 現物支給は「労使協定」と「範囲」がカギ

現物支給は便利な制度ですが、
以下を満たしていなければ違法となります。

  • 労使協定を締結していること

  • 厚生労働省が認める範囲内であること

  • 評価額が社会通念上、適正であること

「福利厚生のつもり」が、
実は賃金不払いと判断されるケースもあるため注意が必要です。


⑥ 退職金も「賃金」であることを忘れない

退職金はトラブルになりやすい分野です。

  • 支払時期が不明確

  • 支払方法が本人同意なしに決められている

  • 小切手払いの説明不足

退職金についても、
支払方法・時期・金額算定方法を明確に規定しておくことが重要です。


まとめ:制度導入=ゴールではない

賃金支払い制度は、

  • 法令理解

  • 規程整備

  • 労働者への丁寧な説明

この3点が揃って、はじめて適正に運用できます。

特にデジタル払いのような新制度は、
「使えるか」より「安全に運用できるか」の視点が不可欠です。

実務は日々アップデートされます。
制度を導入した後も、定期的な見直しを行いましょう。

労働基準法で学ぶ『賃金』の定義と支払いの原則

労働基準法で学ぶ『賃金』の定義と支払いの原則

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ゼロコスト採用コンサルタント 渡瀬 暢也

ゼロコスト採用コンサルタント 渡瀬 暢也

1972年・大阪府生まれ、日本大学経済学部卒業。
「ハローワーク活用7つの鉄則」で中小建設業の採用対策と社員が辞めない労務管理をサポートする社労士。求人営業を約10年、人材派遣を10年以上経験。2009年に職業訓練(建築CAD科)事業を立ち上げ運営も担当、ハローワーク活用の就職支援で約1,000名のCAD技術者を輩出。卒業生の短期離職で、就職支援の限界を痛感。労務管理改善を目指し社労士資格取得。中小建設業の採用難対策から労務管理を行う。建設業の採用をサポートし『20代の採用は10年以上振り』と感謝の声を頂く。若者離れの業界に採用戦略で風穴を開け、従業員の未来ある環境を真剣にサポートしている。

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